三代目は、一択だった
今年の4月、我が家にドラム式洗濯乾燥機が導入された。
ここまでには、二度の失敗があった。
最初は、縦型洗濯機に、電気の乾燥機を上に載せる形だった。
でも、乾燥機が上にあると、背が縮んできた母の手が届かない。
そこで7〜8年前、縦型の洗濯乾燥機に買い替えた。
これが、大失敗だった。
今度は、洗濯槽の底に手が届かない。
おまけに乾燥機能は、二度と取れないレベルのシワが付く代物で、使い物にならない。
二重苦。父にも母にも、大きな後悔の残る買い物になった。
父は今回の買い替えのときも、「あれは失敗じゃった」と言っていた。
そういう経緯があって、三代目は、高くてもヒートポンプ式のドラム一択。
お金の勉強で信頼している人のおすすめでもあったので、私が「高いけど、これが良い」と言って、購入に至った。
大きな買い物には緊張感がともなう
ところで、この洗濯機。
30万円だ。
もちろん、父が払った。
自分の家に関することは、自分で払いたいのが父なのだ。
そして普段は、かなりケチだ。
ファミレスでは、(24H対応の)モーニングセットを頼むし、(コスパが良いと思っている)
ドリンクバーでは、もとを取ろうとする。(3杯飲めたら良いほうだ)
農作業をして、野菜が取れたら、家計の足しになると信じている。(実際には食べきれないほど作って、労力や苗や肥料、除草剤で毎年コスト割れしているだろう)
実際の、時間と労力を考えず、自己流の節約術を信じて頑張っている。
そう言っている人なのに、大きな買い物になると、なぜか急に頭が単純になる。
「高いものは、ええもの」
という持論を、たいへん強く信じている。
「もう少し安いものでもいいんじゃない?」
と言っても、聞かない。
なので今回は、ありがたく、豪快に払っていただくことにした。
30万円。
父の家の、父のお金だ。
ここはもう、黙ってお願いしよう。
高齢者の古い持ち家問題
しかし、いざ購入となると、別の問題が浮上した。
我が家は、築40年を超える古い戸建てだ。
しかも、40年前の一般的な家がどんなものだったのかは知らないが、我が家は少し特殊だ。
父が自分の山から木を切り出し、父が設計した家なのだ。
何度となくこの苦労話を、少しの誇らしさと母の苦情を交えて聞かされてきた。
ちなみに父は、地方公務員だった。
建築士ではない。
それなのに、なぜか家には異様なこだわりがある。
その結果、最近の家とは、いろいろな寸法が違っている。
小さい。
そして、古い。
洗濯機を置く脱衣所も、当然ながら、最近の家電を置くことを前提には作られていない。
脱衣所のドアも小さい。
そのうえ、後からリフォームを重ねた結果、戸口の横には大きめの洗面台が設置されている。
つまり、入口が狭い。
かなり狭い。
新しい洗濯機を購入するにあたって、私はそこが心配だった。
果たして、この大きなドラム式洗濯乾燥機は、我が家の脱衣所に入るのか。
売り場の店員さんは、ドアを外す作業は、業務内容には含まれませんと言う。
「万が一、作業中に部品が壊れた場合、同じものを用意できない場合があって」とのこと。
さもありなん。我が家のすべてのものは、超古いから、
作業中にどこかの部品が壊れても、同じものは手に入らないだろう。
父は言った。
「ドアは、わしが外せる」
いや、無理じゃろ。
78歳、現実を見てくれ。
本人は、自分にはまだまだ腕力があると思っている。
実際、昔はあったのだろう。
しかし最近は、その自信のせいで、無理をしてぎっくり腰になったり、腕の腱を痛めたり、肩を痛めたりしている。
それでも、本人は自分でできると思っている。
そして、たぶん本当にドアを外そうとする。
最悪の場合、外れたドアが元に戻らない。
そうなったら、どうするのか。
暖簾でもかけるか。
いや、それではプライバシーも何もあったものじゃない。
じいさんばあさんの素っ裸を、私に見せないでほしい。気持ちが萎えるから。
冗談はさておき、
冬の脱衣所は、電気ストーブを置いても、極寒になるだろう。
服を脱ぎながら震え、お風呂から出たあとも、冷たい風に吹かれながら体を拭く。
そんな未来が、かなりリアルに見えた。
どうしよう。この問題をなんとかしないと、ここから先に進められない。
地域の便利屋さんを探してみようか?
私が心配していると、事前の現場確認に来てくれた業者さんは、軽い感じで言った。
「こちらでしますよ」
ああ、良かった。プロに任せよう。
そして、設置の日
当日は、家族3人で、そわそわしながら洗濯機の到着を待った。
そして、やって来た。
身長180センチ以上ありそうな、ガタイのいいおじさんが2人。
作業が始まると、あっという間にドアが外れた。
さらに、80キロ近い洗濯機を、2人で腰の高さまで持ち上げる。
洗濯機を抱えたまま、ドアの上ぎりぎり。
洗面台の飛び出した部分ぎりぎり。
その、ほんのわずかな隙間を通していく。
見ているこちらは、
「ドアは無事に外れるのか?」
「洗濯機は本当に入るのか?」
と、ただ見守るしかない。
後期高齢者2人と、おばさん1人という地味なオーディエンスに見守られながら、
洗濯乾燥機は無事に設置された。
設置される様子を見守る両親は、かなり興奮していた。
「すごいな!」
「あんなに重いものを!」
「横にして通すんじゃな、なるほど!」
「プロは凄いな!」
大声で、わいわい話している。
私は、いつものことながら、少し恥ずかしかった。
業者さんから見た我が家は、きっと、
小さな田舎の村人A。
村人B。
村人C。
くらいに見えただろう。
しかし、とうとう我が家に、最新家電がやって来た。
これで安心。
これで、母も新しい洗濯機を使えるようになるだろう。
私は、そう思っていた。
しかし。
本当の問題は、洗濯機が設置されたあとに始まった。
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