冷蔵庫に、見知らぬ電話番号
今日は、両親の買い物の日だった。
帰宅すると、冷蔵庫に見慣れないチラシが貼ってあった。
デイサービスのチラシだ。
その横に、メモが一枚。
知らない女性の名前と、電話番号が書いてある。
……誰? 誰の連絡先??
母に、聞いてみた。
月に一度の教室で、友達ができたらしい
きれいな字のプリントを持って帰ってきた、あの日のことだ。
あの日母は、教室で一緒になった女性と、仲良くなっていたらしい。
その方が、このデイサービスに興味があって、母も誘われたのだそうだ。
それで、連絡先を交換した。
名前と電話番号を、直接、紙のメモで。
個人情報という概念が、いまだに実生活に馴染まない世代なのだ。
パチンコができる、デイサービス
チラシを見ると、「おっ?これは??」と思わせる内容だった。
カラオケ。
パチンコ。
スロット。
手作りランチ。
個人マッサージ。
ずいぶん力の入ったデイサービスだ。確かにこのニーズは高齢者と相性が良さそうだ。
気に入った高齢者が、パチンコ台やスロット台を譲らず、小競り合いになる場面が目に浮かぶ(苦笑)
通う側にとって「行きたい場所」かどうかが、何より大事だと思う。
こういう楽しさに熱中する高齢者は結構いるだろうし、なかなか良いアイディアだなと思った。
もしかしたら、母にもハマりそうかも?と、想像して笑えた。
高齢者を楽しませるのは、大事なことだが、意外と難しい。
相手のニーズをよく知らないといけないし、「お年寄りだから」という思い込みで、相手にハマらないことも多い。
一つだけ目を引いた点は、施設内通貨でパチンコやスロットをすると記載されていたところだ。
現金は使わないシステムにしてあるのか?
それなら高齢者が使いすぎることもないから安心だ。
ご家族にも好印象だろう(笑)
「一緒に行ってほしいみたいだった」
母は、チラシを見ながら言った。
「見学に行ったら、食事を食べさせてくれるらしい」
「その人、一緒に行ってほしそうだった」
——お気づきだろうか。
主語が、ぜんぶお友達なのだ。
母は昔から、自分の「行きたい」を、そのまま言わない人だ。
外食のとき、父は自分の食べたい店を選ぶ。
母は、好みじゃない店のメニューから「食べられそうなもの」を選ぶ。
そういう役回りを、何十年もやってきた。
だから母の欲望は、いつも、誰かの希望の形をして出てくる。
から揚げを「娘の好物」として買ってくる父と、実は同じ構造だ。
この家の人たちは、自分の欲を、直接言わないのだ。
でも、今日のは、わかる。
多分、行ってみたいのだ。母は。
連絡は、まだ来ない
「まだ、連絡がないんだけど」
母は、少し残念そうに言う。
母は、自分からは電話をかけない人だ。
待つ人なのだ。
連絡が来たら、母はどうするのだろう。
見学に行くのか。
行って、パチンコをするのか。
ちょっと、見てみたい気もする。
電話が鳴る日を、私も少しだけ、待っている。
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