事故もないのに、ぐったり
今日は、朝からずっと人間に振り回された一日だった。
正確には、人間の感情に振り回された一日。
仕事そのものは大したことは起きていない。
転倒もない。
急変もない。
大きな医療処置もない。
それなのに、帰宅した頃にはぐったり疲れていた。
朝から漂う不穏な空気
出勤してから私は、ある利用者さんのことを先に片付けてしまいたかった。
入院を終えて、施設に戻ってきたばかりの利用者さん。
その日は午前中往診の予定があったので、今後の対応を先生に確認しておきたかった。
頼まれていたことの具体的な内容をまとめて、今日は不在の主任に、往診が始まる前に電話ででも確認しておきたかった。
今日は、看護師の数が多い。私は優先順位が高いと思うことをさせてもらおう。
気づけば、先に処置に入っていた看護師が戻ってきた。
そして、その瞬間から空気がおかしかった。
朝の挨拶をしても返事がない。
相談をしても、
「私がやるからいいです」
と冷たく返される。
その後、別の看護師が来たときに、
「看護師が何人もいるのに、誰も手伝いに来てくれないんですよ」
と半分冗談のように言った。
私はその時初めて、彼女が怒っている理由を理解した。
とりあえず謝った
しばらくして二人きりになった時、私は謝った。
こういうことは、さっさと済ませたほうが後々楽だということを知っている。
「任せすぎていました。申し訳ありません」
実際、私が彼女の立場でも、「あれ?今日、看護師多いはずなのに、全然応援こないな?」と思うだろう。(ただ、私なら、その後に「何かあったのかな?」と思うだけだろうけど)
すると彼女は、
「そんなことない」
と言った。
でもその後に続いた言葉は、正直よく分からなかった。
「私が夜勤ばっかりして、日勤のことができないから」
そんな話だったと思う。
今振り返っても意味はよく分からない。
ただ、その時は、それ以上無駄なやり取りをする気にならなかった。
時々人間社会では、お互い「いえいえ、私が悪かった」「いいえ、こちらも悪かった」的な一連の流れを踏むことが、円滑な関係性を作ることもあると知っているけど、今回それをするほど、自分でも納得がいっていなかったのだと思う。
本当に私は悪かったのか?
そんなゴタゴタのあとも、予定どおり往診対応をし、昼食援助をし、看護師仲間で休憩を取り、仕事に関係のない世間話をし、引き続き午後の業務が過ぎていったころ、少しずつモヤモヤの輪郭がはっきりしてきた。
よく考えたら、彼女が『自分ばかり、一人でさせられた』と感じた細々とした処置は、その時間帯に絶対終わらせなければならない仕事ではなかった。
むしろ、看護師の多い今日のような日なら、後でゆっくり対応することは十分可能だったと思う。
他の看護師も、それぞれ後で対応するつもりだったと言っていた。(後で話している時、分かったことだが)
つまり、
「仕事量が多かった」
というより、
「本人のペースではその時間に終わらせたかった」
という要素もあったのかもしれない。
すると今度は、
なぜ私は謝ったのだろう?
という気持ちが湧いてきた。
いや、彼女のペースに合わせられず、結果的にその時間帯、彼女が忙しく働くことになってしまったことは申し訳なく思う。
でも、朝の無視や不機嫌な態度まで受け入れる必要はあったのだろうか。
そんなことを考え始めた。
そして新人看護師は震えていた
一方で、一番最近入職された看護師さんは明らかにオロオロしていた。
怒っている人。
空気が重い職場。
その真ん中で固まっている。
私は自分を落ち着かせるためにも、不安そうな彼女に、
「平常心で行きましょう」
と3回くらい言っていた気がする。
今思うと笑ってしまう。
私も十分ビビっていた。
でも、もっとビビっている人がいたのだ。
無視される側になって分かったこと
今日、一番の収穫は別のところにあった。
私は元々、感情的になった時は距離を置きたいタイプだ。
黙る。
一人になる。
考える。
なぜそうするのか。
感情のまま口にした言葉は、後で取り消せないからだ。
一度失った信頼を取り戻すには、数倍の努力と誠意が必要になる。
それでも、もう二度と戻らないかもしれない。
長年生きていれば、そういうことは自然と身につく考えだと思っていた。
でも、どうやらそうでもないらしい。
そして今日、無視される側に立ってみて、もう一つ分かったことがある。
無視されるのって、結構傷つく。
今日のような、あからさまな無視を、私は初めて受けた。
最初はびっくりして、その次に「私、なにかした?」と思った。そして、ショックを受けたし、怖いなと感じた。
相手は冷静になる時間が欲しいだけかもしれない。
でも受け取る側には、
「拒絶された」
ように感じる。
だから次からは、
「ちょっと時間が欲しい」
そう伝えようと思う。
距離を置くことは悪くない。
ただ、理由は伝えた方がいい。
今日の結論
今日は人間が多すぎた。
怒る人。
不安になる人。
空気を読む人。
そして、それを全部観察してしまう私。
人間社会は本当に面倒くさい。
でも今日一日を振り返って思う。
みんな少しずつ変だ。
そして私もたぶん変だ。
それで何とか社会は回っている。
だから今日はもう、人類の研究は終了。
帰ったら犬を撫でて、本でも読もうと思う。
後日談
翌日、例の看護師さんは公休だった。
おかげで、新人さんと二人、安心して話すことができた(笑)。
聞けば彼女は、前の職場にも、あからさまな無視をする先輩看護師がいたらしい。
今回も、私と同じく挨拶をガン無視されたそうで、
「あ、この人はこういう人なんだな、と思いました」
と言っていた。
嫌な経験のはずなのに、それに耐えて、淡々と働き続けてきた人なんだな。
いい意味で、彼女のしたたかさを感じた。
もちろん、嫌な気持ちにはなるだろうし、その場では落ち着かなかったと思う。
実際、彼女もあの日、家に帰ってからモヤモヤが残って、AIに相談したらしい。
私も同じことをしていた。
お互い、別々の家で、それぞれAIに愚痴っていたのだ。
それを知って、二人で笑ってしまった。
人間に疲れた夜、人間じゃないものに話を聞いてもらう。
そんな時代になったんだなあ。
でも、翌日こうして人間同士で笑い合えたから、まあ、それでいいのだと思う。
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